新創監査法人

山口誠一郎
プロフィール
1961年生まれ。1983年三井不動産販売株式会社入社。1990年当社取締役。1992年当社代表取締役社長(現任)。2012年一般社団法人全国住宅産業協会 理事、政策委員会副委員長(現任)

トーセイ株式会社は2006年に東証第二部上場。2011年東証第一部上場。2013年シンガポール証券取引所メインボードに上場。
加藤 厚
プロフィール
1971年クーパース・アンド・ライブランド東京事務所パートナー、1984年中央青山監査法人代表社員、2001年~2007年企業会計基準委員会委員(非常勤)、2006年あらた監査法人代表社員、2007年コントロール・ソリューションズ・インターナショナル(株)代表取締役社長、2009年企業会計基準委員会委員、2010年同副委員長、2014年国際会計士倫理基準審議会ボードメンバー。 公認会計士。
東証一部上場会社であるトーセイ株式会社は、2013年にシンガポール証券取引所(以下、SGX)への上場も果たしました。東証とSGXのダブル上場は不動産会社としては第1号です。これを機に、トーセイ株式会社は日本においてもIFRSを採用(上場会社では9社目)しました。トーセイ株式会社と新創監査法人は、ダブル上場、ダブル監査などさまざまな検討課題の解決に取り組んでいきました。今回は国際的な会計・監査事情にお詳しい国際会計士倫理基準審議会ボードメンバーの公認会計士の加藤厚先生もお迎えして、中堅企業と中小監査法人のそれぞれのビッグチャレンジについて語り合います。
PART1  ダブル上場の面白さと苦労 
SGX上場を考えたきっかけ
柳澤
今回はトーセイ株式会社の山口社長と、企業会計基準委員会の前副委員長で、現在は国際会計士倫理基準審議会ボードメンバーの加藤厚先生をお迎えしました。トーセイは2013年にSGXに上場して東証とのダブル上場を果たしたわけですが、まずSGX上場を目指したきっかけを教えてください。
山口
2000年に不動産投資信託(リート)が法律で認められて以来、日本の不動産マーケットは完全にグローバルになりました。投資プレーヤーが日本人から外国人中心になっていく中で、会社自身もグローバル化の必要を感じたということです。特に不動産ファンドという概念も2000年から定着して、今も50%以上の投資家が外国の方です。ですから私たちもグローバル企業として成長するために、海外上場の検討を始めました。
柳澤
海外投資家が不可欠だということですね。
山口
そうです。シンガポールはアジアの不動産金融マーケットのハブですし、欧米、アジア、アブダビ、中東のお金が集まっています。投資家はそこから投資を考えていますから、私たちはそこに打って出ようという趣旨でシンガポール上場を検討しました。
柳澤
他の市場は考えなかったですか?
山口
実は、香港取引所もSGXも「こっちにいらっしゃい」というプレゼンがすごかったんです。香港市場は規模が大きくて、時価総額が当時でも300兆円くらいある。片やシンガポールは100兆円いかないですから、「そんな小さいところに行くな」というのが香港のプレゼン。片やシンガポールは尖閣問題が出たときでしたから、「そんな中国に行ってリスクを取るんですか」と、シンガポールは非常に透明で明確なルールで、中国の文化とは違うんだとプレゼンに来るわけです(笑)。シンガポールは大使館からいきなりアポがあったんですよ。SGXと証券会社を紹介するから来なさいと、香港なんかやめなさいと、そういうプロモーションはすごいです。
柳澤
国を挙げたプロモーションなんですね。
山口
こちらは大使館の人に会ったこともないから、いきなりアポがあって「何でしょうか?」と驚きました(笑)。日本はそこまで世界企業の誘致はやらないですからね。結果、 私たちはシンガポールを選びましたが、それは不動産ファンドへの投資家がシンガポールベースの人が多かったということと仲間がいてセットアップがやりやすかったというのがメインの理由です。あともう1点は、香港市場上場は英文と中国語の同時開示なんですよ。我々、英語はついていっていますが、中国語は無理だと、中国語のスタッフがいないということが大きかったですね。
柳澤
不動産業界でSGXに上場しているところはないですよね。
山口
三井、三菱、大和ハウスもビジネスとしてはシンガポールに進出していますが、上場はしていません。
柳澤
ビジネスで海外進出とは考えなかったのですか?
山口
三井、三菱など大手はいいですが、我々が説明に行くときに、いくら東証に上場していても「お前だれ?」となりますよね。やはり知名度の向上と与信向上が必要で、機関投資家を誘致するにあたって、東証の上場審査とシンガポールの厳しい上場審査に合格したということになると、ガバナンスが非常にしっかりしていると見ていただけます。それとシンガポールはIFRSですから海外の投資家が理解しやすいという狙いがあって、そこは当たりましたね。
加藤
私が理解しているところでは、日本企業の社長の方達はあまり会計に関心がない方が多いと思うのですが、山口社長はIFRSを使うことのメリットをご存知だったのですね?
山口
海外上場をきっかけに勉強を始めました。
柳澤
山口社長は会計のことをすごく分かっているんですよ。役員会とのディスカッションをやっても社長が経理部に負けないぐらい分かっているんじゃないかと思います。
加藤
IFRSに対して、どのような印象を持ちましたか?
山口
興味がありましたよね。世界の基準と日本の基準と何が違うんだと。私たちは新しいことにチャレンジする会社で、私自信もそうなので、会計によってどういう影響があるのか、新聞で読んでいるようなことを勉強できると思いました(笑)。
加藤
実際にやってみていかがでしたか?
山口
私たちにとっては、それほど大きな影響はなかったです。棚卸資産、ファンドの連結、家賃の期間配分などの会計基準差異の問題はありましたが、たいしたことはない。それよりもIFRSにすることによって外国の投資家の認知度や信用を上げることができるプラスが断然大きいと感じました。
柳澤
シンガポールで上場しようとすると向こうの監査を受けないといけません。そのときに、日本の新創の監査を利用できるかできないかという議論がありました。海外の大手の監査法人は全部「新創の監査を利用することはできない」と言うんです。まさに「新創って何だい?」という話です。新創の監査が利用できないと、一から監査をやらなければいけなくてダブル監査になってしまいます。そうするとコスト面でも大変ですから、いろいろ探して、仰星監査法人を通じてネクシアを紹介してもらいました。あと、会社側に社外役員の少徳さんというシンガポール在住の日本の公認会計士がいて、そのコネクションも使って、ネクシアが新創の監査を利用して監査をするという形に持っていったんです。ダブル監査ではないようにするということが、今回、かなり大変でした。
山口
結局、ネクシアからの監査証明が必要だったのは、上場のときの1回だけだったんですよね。東証はSGXの5%の株主であるにも関わらず、ダブル上場の詳細なルールを設定していないんです。それで新創と我々でどうするんだと模索しながら、そこで初めて手続きの詳細を確認していくといった感じでした。そういう意味では新創とうちで新しい手順を確立していった、会社と監査法人それぞれのパイオニアの仕事ができたという思いが強いです。
柳澤
SGX上場のときに「大手監査法人でないと」という話はでましたか?
山口
新創に失礼を承知で申し上げますと、SGXからはシンガポールにある大手の監査法人や証券会社の推奨がありました。でも私どもは、生意気な言い方をすれば新創のクオリティが充実しているということでやってきたので、自信を持ってこのチームでいきたいと言いました。むしろ、新創のクオリティを利用できなかったら行かないくらいの思いでしたね。
 2004年に初めてジャスダックに上場したときは何も知らないので、大手監査法人を推奨するなら大手で受けましょうと始めましたが、上場すると上場会社のあるべき姿やバランスがわかってくるわけです。そうすると監査法人も大手だけじゃないなと、実質で見ようと、見る目ができてきます。ですからSGX上場のときは新創で行くと、そこの迷いは全くなかったです。
柳澤
ありがとうございます。新創のクオリティを信頼していただけるのが本当に嬉しいです。
山口
立場は違いますが、うちにとっても新創にとってもものすごいチャレンジで、新創もまさにベンチャーマインドでやっていただいたので、達成できたと思います。
山口
上場のために過去の3期分をIFRSへ修正するという作業が大変でしたね。
柳澤
初度適用の大変さはありましたね。社長と私の間では、感覚的には「できるよね」と意見一致しましたが、実際の作業になるとそうはいかない。基本的に全部過去に遡って計算し直さないといけませんから、現場は大変です。
加藤
監査基準は、日本のあるいは国際監査基準ですか?
柳澤
日本の監査基準です。
相川
日本の監査基準は国際監査基準とほとんど差がないというのを説明して、ネクシアには納得していただきました。監査計画から始まって、実証テストや内部統制の評価は9割ぐらい我々の監査の結果に依拠して、残りの1割をネクシア側でサンプリングや追加手続をやったという感じです。監査基準の違いや監査法人間のツールなどの細かい違いについてはどこが違うのか説明して、あとは我々のサンプル方針と向こうの監査法人のサンプル方針の違いをどうするかとか、重要性の基準がそもそも向こうと違いますので、その辺の詰めをやってお互いが合意したというところです。
柳澤
最初は手探りなんですよね。我々の監査報告書がどういう利用のされ方をするのかよく分からない状態でしたから。我々がいてネクシアがいて、シンガポールと東証のダブル上場でと、前例がないのですべて手探りでした。
山口
今思っても面白かったですね。大変だったけど(笑)。
柳澤
ダブル監査にならないようにどうしようとか、基準はどうしようとか、スキームの組み合わせやいろいろなことを1個1個作っていく面白さがありましたね。
山口
シンガポールで買った株が東証で売れるのか、東証で買った株がシンガポールで売れるのか、そういう手続きの詳細も明確に決まっていないわけです。それは僕の仕事ではなくて、東証とSGXの仕事なのですが、誰かが言わないと手順が決まっていかないので、そういうことを突いていくのが面白かったし、大変だった。そうして手続きの詳細づくりに貢献できたことが面白かったですね。
相川
監査人の立場としても、IFRS対応している会社の監査は我々にとって例がなかったので、どこまでやってもらうのかなど一から検討しながらやっていました。その意味では、我々としても非常に面白かったです。
加藤
振り返れば面白かったと思うけれど、当時は大変だったでしょうね。
山口
準備で2年くらいかかりました。最初は新創の勉強会から始まって、そこにうちの経理部チームが加わってお互いに知識を高めていきました。
柳澤
日本の決算も監査も行っている最中に、合わせてIFRSの勉強もして負担がダブルになっていました。
山口
しかも上場はいつOKが出るか分からないですから、IFRSで出さなければいけない前3年はどの期になるのか、上場日がずれるとせっかくやってきたのをもう一期、次のも直さないといけないという、絶えず、走りながらやってきましたよね。
加藤
そういう意味では本当にパイオニアですよね。御社にとっても監査法人にとっても証券取引所にとっても、すごいことですよ。
山口
目論見書が厚かったですね。シンガポール証券取引所の方も、ここ10年で自分が見た中で一番厚いと言っていました(笑)。会社法の違い、ルールの違い、こんなに説明を書かなければいけない上場はないというくらいでしたね。
山口誠一郎
プロフィール
1961年生まれ。1983年三井不動産販売株式会社入社。1990年当社取締役。1992年当社代表取締役社長(現任)。2012年一般社団法人全国住宅産業協会 理事、政策委員会副委員長(現任)

トーセイ株式会社は2006年に東証第二部上場。2011年東証第一部上場。2013年シンガポール証券取引所メインボードに上場。
加藤 厚
プロフィール
1971年クーパース・アンド・ライブランド東京事務所パートナー、1984年中央青山監査法人代表社員、2001年~2007年企業会計基準委員会委員(非常勤)、2006年あらた監査法人代表社員、2007年コントロール・ソリューションズ・インターナショナル(株)代表取締役社長、2009年企業会計基準委員会委員、2010年同副委員長、2014年国際会計士倫理基準審議会ボードメンバー。 公認会計士。
第1回対談
星野リゾート 星野佳路⽒
第2回対談
トーセイ(株)⼭⼝誠⼀郎⽒IESBAボードメンバー 加藤厚⽒
第3回対談
映画「家族はつらいよ」東京税理⼠会 スペシャル座談会ゲスト:⼭⽥洋次監督
第4回対談
(株)エスネットワークス
採⽤情報スペシャル対談「なぜいま、新創監査法⼈なのか」

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